交代冪和の性質
~「特殊から一般へ」の試み ~
埼玉県高等学校数学教育研究会
2011年2月 執筆 (2021年6月 一部加筆)
§1.はじめに
 2010年度の埼玉県公立高等学校後期学力検査において, 次のような問題が出題された.
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 一辺の長さが1cmの正方形があり, これを1番目の図形とします. この正方形の周りに一辺の長さが2cmの正方形をかき, 2番目の図形とします.
 同じようにして, 一辺の長さが3cm, 4cm, 5cm, 6cmの正方形を順番に周りに書いて, 3番目, 4番目, 5番目, 6番目と図形をつくっていきます.
 それぞれの図形に, 図のようなかげ()をつけ, その部分の面積を考えます. このとき, 6番目の図形のかげ()をつけた部分の面積を求めなさい.

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 上の問題において, \(k\) 番目の図形の面積を \(T_{2}(k)\) とおけば,
\[\begin{equation}\begin{split}T_{2}(1)&=1^2&=1\\
T_{2}(2)&=2^2-1^2&=3\\
T_{2}(3)&=3^2-2^2+1^2&=6\\
T_{2}(4)&=4^2-3^2+2^2-1^2&=10\\
T_{2}(5)&=5^2-4^2+3^2-2^2+1^2&=15\\
T_{2}(6)&=6^2-5^2+4^2-3^2+2^2-1^2&=21\\
\end{split}\end{equation}\tag{1.1}\]が得られる.
 
 筆者はこれまで, \((1.1)\) のような平方数の交代和について, 高校入試や大学入試で見かけたことはほとんどなかった. 大学入試において出題されるのは \[\begin{equation}\begin{split}S_{1}(k)
&=1+2+3+\cdots+k&=&\,\frac{1}{\,2\,}\,k\,(k\!+\!1)\\
S_{2}(k)&=1^2\!+2^2\!+3^2\!+\cdots+{k^2}&=&\,\frac{1}{\,6\,}\,k\,(k\!+\!1)(2k\!+\!1)\\
S_{3}(k)&\:=1^3\!+2^3\!+3^3\!+\cdots+{k^3}&=&\,\frac{1}{\,4\,}\,k^2(k\!+\!1)^2\\
\end{split}\end{equation}\tag{1.2}\]などの冪和についての問題であり, これを一般化した
Faulhaber の冪和公式
\[\begin{eqnarray}\textcolor{blue}{S_{n}(k)}&\textcolor{blue}{=}
&\textcolor{blue}{\sum_{j\!\:=\!\:1}^{k}\,j^{\!\:n\!\:}}\\
&\textcolor{blue}{=}&\textcolor{blue}{\frac{1}{n\!\!\:+\!1}
\sum_{j\!\:=\!\:0}^{k} \binom{n\!+\!1}{j}\:\!B_{j}\,k^{n+1-j}}
\end{eqnarray}\](ただし, \(B_{j}\) は Bernoulli 数
 
についても, (大学入試の範囲を逸脱するが, 事実としては) 広く知られている.
 
 一方, \((1.1)\) のような交代平方和をはじめとして, 交代立方和\[T_{3}(k)
=\sum_{j\!\:=\!\:1}^{k}\,(-1)^{k-j}\,j^{\!\:3}\]ひいては一般の指数 \(n\in\mathbb{N}\) についての
交代冪和\[\textcolor{blue}{T_{n}(k)
=\sum_{j\!\:=\!\:1}^{k}\,(-1)^{k-j}\,j^{\!\:n}}\tag{1.3}\]に関する話題や研究については, 寡聞にして知らないのである.
 
 本稿では, \((1.3)\) のような交代冪和について考察しようと思う.
 

 
§2.交代平方和
 \((1.1)\) において, 各 \(T_{2}(k)\) の値は三角数すなわち \(S_{1}(k)\) であるから, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について \[\textcolor{blue}{T_{2}(k)=S_{1}(k)}\tag{2.1}\] が成り立つ. これは, \((1.2)\) における \(S_{1}(k)\) を用いた数学的帰納法により示せる.
 
 \((1.1)\) の隣接2項の和および差をとれば, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について \[T_{2}(k)+T_{2}(k\!-\!1)=
k^2\]\[T_{2}(k)-T_{2}(k\!-\!1)=k\tag{2.2}\]が得られ, これより\[\textcolor{blue}
{(T_{2}(k))^2-(T_{2}(k\!-\!1))^2=k^3}\tag{2.3}\]が得られるから,
\[\begin{equation}\begin{split}(T_{2}(1))^2-(T_{2}(0))^2&=1^3\\
(T_{2}(2))^2-(T_{2}(1))^2&=2^3\\
(T_{2}(3))^2-(T_{2}(2))^2&=3^3\\
(T_{2}(4))^2-(T_{2}(3))^2&=4^3\\
(T_{2}(5))^2-(T_{2}(4))^2&=5^3\\
(T_{2}(6))^2-(T_{2}(5))^2&=6^3\end{split}\end{equation}\tag{2.4}\]などが成り立つ (ただし, 便宜上 \(T_{2}(0)=0\) とした). \((2.4)\) の各等式を辺々加えれば,\[\begin{equation}\begin{split}(T_{2}(1))^2&=(1^2)^2&=1^3\\
(T_{2}(2))^2&=(2^2\!-\!1^2)^2&=2^3+1^3\\
(T_{2}(3))^2&=(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)^2&=3^3+2^3+1^3\\
(T_{2}(4))^2&=(4^2\!-\!3^2\!+\!2^2\!-\!1^2)^2&=4^3+3^3+2^3+1^3\\
(T_{2}(5))^2&=(5^2\!-\!4^2\!+\!3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)^2&=5^3+4^3+3^3+2^3+1^3\\
(T_{2}(6))^2&=(6^2\!-\!5^2\!+\!4^2\!-\!3^2\!+\!2^2\!-\!1^2)^2&
=6^3+5^3+4^3+3^3+2^3+1^3\end{split}\end{equation}\tag{2.5}\]が得られる. 一般に, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について, \[\textcolor{blue}{(T_{2}(k))^2=S_{3}(k)}\tag{2.6}\]が成り立つ. これは, \((2.1)\) および \((1.2)\) における \(S_{3}(k)\) を用いた同値変形により示せる.
 
 さて, \((1.1)\) の各等式を辺々加えると, \[\begin{equation}\begin{split}T_{2}(1)&=1^2&=1\cdot1\\
T_{2}(1)\!+\!T_{2}(2)&=2^2&=2\cdot1+1\cdot2\\
T_{2}(1)\!+\!T_{2}(2)\!+\!T_{2}(3)&=3^2+1^2&=3\cdot1\!+\!2\cdot2\!+\!1\cdot3\\
T_{2}(1)\!+\!T_{2}(2)\!+\!T_{2}(3)\!+\!T_{2}(4)&=4^2+2^2
&=4\cdot1\!+\!3\cdot2\!+\!2\cdot3\!+\!1\cdot4\\
T_{2}(1)\!+\!T_{2}(2)\!+\cdots\cdots+\!T_{2}(5)&=5^2+3^2+1^2
&=5\cdot1\!+\!4\cdot2\!+\cdots\cdots+\!1\cdot5\\
T_{2}(1)\!+\!T_{2}(2)\!+\cdots\cdots+\!T_{2}(6)&=6^2+4^2+2^2
&=6\cdot1\!+5\cdot2\!+\cdots\cdots+\!1\cdot6\\
\end{split}\end{equation}\tag{2.7}\]が得られる. これより, 任意の \(k\in \mathbb{N}\) について
\[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\,T_{2}(i)
=\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\,(k\!-\!i\!+\!1)\,i}\]が成り立つ. これは, \((2.1)\) および \((1.2)\) における \(S_{1}(k),\, S_{2}(k)\) を用いた同値変形により示せる.
 
 また, \(\,(2.5)\) の各等式を辺々加えると,
\[\begin{equation}\begin{split}&(T_{2}(1))^2&=1\cdot1^3\\
&(T_{2}(1))^2+(T_{2}(2))^2&=1\cdot2^3+2\cdot1^3\\
&(T_{2}(1))^2+(T_{2}(2))^2+(T_{2}(3))^2&=1\cdot3^3+2\cdot2^3+3\cdot1^3\\
&(T_{2}(1))^2+(T_{2}(2))^2+\cdots+(T_{2}(4))^2
&=1\cdot4^3+2\cdot3^3+3\cdot2^3+4\cdot1^3\\
&(T_{2}(1))^2+(T_{2}(2))^2+\cdots+(T_{2}(5))^2
&=1\cdot5^3+2\cdot4^3+\cdots+4\cdot2^3+5\cdot1^3\\
&(T_{2}(1))^2+(T_{2}(2))^2+\cdots+(T_{2}(6))^2
&=1\cdot6^3+2\cdot5^3+\cdots+5\cdot2^3+6\cdot1^3\end{split}\end{equation}\]が得られ, これより, 任意の \(k\in \mathbb{N}\) について\[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\,(T_{2}(i))^2=
\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\,(k\!-\!i\!+\!1)\,i^3}\]
が成り立つ. これは, \((2.6)\) および Faulhaber の公式における \(S_{4}(k)\) を用いた同値変形により示せる.
 
 ところで, \((2.7)\) の左辺における各項の符号を変え,
交代平方和の交代和を求めれば, \[\begin{equation}
\begin{split}T_{2}(1)&=1^2=1\cdot1\\
T_{2}(2)\!-\!T_{2}(1)&=(2^2\!-\!1^2)-1^2=1\cdot2^2-2\cdot1^2\\
T_{2}(3)\!-\!T_{2}(2)\!+\!T_{2}(1)&=(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)-(2^2\!-\!1^2)+1^2\\
&=1\cdot3^2\!-\!2\cdot2^2\!+\!3\cdot1^2\\
T_{2}(4)\!-\!T_{2}(3)\!+\!T_{2}(2)\!-\!T_{2}(1)
&=1\cdot4^2\!-\!2\cdot3^2\!+\!3\cdot2^2\!-\!4\cdot1^2\\
T_{2}(5)\!-\!T_{2}(4)\!+\cdots\cdots+\!T_{2}(1)
&=1\cdot5^2\!-\!2\cdot4^2\!+\cdots\cdots+\!5\cdot1^2\\
T_{2}(6)\!-\!T_{2}(5)\!+\cdots\cdots-\!T_{2}(1)
&=1\cdot6^2\!-2\cdot5^2\!+\cdots\cdots-\!6\cdot1^2\\
\end{split}\end{equation}\tag{2.8}\]が得られる. 一般に, 任意の \(k\in \mathbb{N}\) について\[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\,(-1)^{k-i}\,T_{2}(i)
=\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\,(-1)^{k-i}(k\!-\!i\!+\!1)\,i^2}\]が成り立つ. これは, \((1.2)\) および \((2.1)\) を用いた同値変形により示せる.
 
 さて, これ以上に数式変形を弄しても, 計算がいたずらに煩雑になるのみで興味深い関係式は得られないであろうと思われたが, もう少し踏み込んで
交代平方和の交代平方和 \(\displaystyle{\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\,(-1)^{k-i}\,(T_{2}(i))^2}\) \[\begin{equation}\begin{split}
&(T_{2}(1))^2&=1\\
&(T_{2}(2))^2-(T_{2}(1))^2&=8\\
&(T_{2}(3))^2-(T_{2}(2))^2+(T_{2}(1))^2&=28\\
&(T_{2}(4))^2-(T_{2}(3))^2+(T_{2}(2))^2-(T_{2}(1))^2&=72\\
&(T_{2}(5))^2-(T_{2}(4))^2+(T_{2}(3))^2-(T_{2}(2))^2+(T_{2}(1))^2&=153\\
&(T_{2}(6))^2-(T_{2}(5))^2+(T_{2}(4))^2-(T_{2}(3))^2+(T_{2}(2))^2-(T_{2}(1))^2&=288\\
&\cdots\cdots^{ }\end{split}\end{equation}\tag{2.9}\]を計算してみると, \((2.9)\) における等式の右辺に見おぼえのある数字が散在していることに気づいた.
 小さい方から数えて
\(k\) 番目の完全数を \(P_k\) とおけば, \((2.9)\) において, 最初の完全数 \(P_1=6\) を除く他の完全数がもれなく含まれている.
 
 EXCELを用いた計算によれば,\[\begin{equation}\begin{split}&
\sum_{i\!\:=\!\:1}^{3}\,(-1)^{3-i}\,(T_{2}(i))^2&=28&=P_2\\
&\sum_{i\!\:=\!\:1}^{7}\,(-1)^{7-i}\,(T_{2}(i))^2&=496&=P_3\\
&\sum_{i\!\:=\!\:1}^{15}\,(-1)^{15-i}\,(T_{2}(i))^2&=8128&=P_4\\
&\sum_{i\!\:=\!\:1}^{127}\,(-1)^{127-i}\,(T_{2}(i))^2&=33550336&=P_5\\
&\sum_{i\!\:=\!\:1}^{511}\,(-1)^{511-i}\,(T_{2}(i))^2&=8589869056&=P_6\\
&\sum_{i\!\:=\!\:1}^{1023}\,(-1)^{1023-i}\,(T_{2}(i))^2
&=137438691328&=P_7\end{split}\end{equation}\]が成り立つ. このとき, 左辺の \(\displaystyle{\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\,(-1)^{k-i}\,(T_{2}(i))^2}\) における \(k\) は, \(\displaystyle{2^l\!-\!1}\,\,(\!\:l\in\mathbb{N}\!\:)\,\)という形の数である.
 
 よく知られているように,
\(2^p\!-\!1\,\,(\!\:\!\:p\in\mathbb{N}\!\:)\) が素数ならば \(2^{p-1}\!\cdot(2^p\!-\!1)\) は完全数である (かつ, 偶数の完全数はこの形の数に限られる) から, これに基づいて \(p\) と \(l\) の関係を見ると,\[\begin{equation}\begin{split}&P_2=2^{3-1}\cdot(2^3\!-\!1),
 \,\,&p&=3, \,\,\,&k&=2^2\!-\!1,\:\:\:\:\:\:&l&=2\\
&P_3=2^{5-1}\cdot(2^5\!-\!1), \,\,&p&=5, \,\,\,&k&=2^3\!-\!1,\:\:\:\:\:\:&l&=3\\
&P_4=2^{7-1}\cdot(2^7\!-\!1), \,\,&p&=7, \,\,\,&k&=2^4\!-\!1,\:\:\:\:\:\:&l&=4\\
&P_5=2^{13-1}\cdot(2^{13}\!-\!1), \,\,&p&=13, \,\,\,&k&=2^7\!-\!1,\:\:\:\:\:\:&l&=7\\
&P_6=2^{17-1}\cdot(2^{17}\!-\!1), \,\,&p&=17, \,\,\,&k&=2^9\!-\!1,\:\:\:\:\:\:&l&=9\\
&P_7=2^{19-1}\cdot(2^{19}\!-\!1), \,\,\,&p&=19, \,\,\,&k&=2^{10\!}\!\,-\!1,\:\:\:\:\:\:&l&
=10\end{split}\end{equation}\]すなわち \(p=2l\!-\!1\) であることがわかる. これより, \(2^{2l-1}\!-\!1\,\,(\,l\in\mathbb{N}\,)\,\)が素数ならば, \[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:1}^{2^l-1}\,(-1)^{2^l-1-i}\,(T_{2}(i))^2
=2^{2l-2}\cdot(2^{2l-1}\!-\!1)}\tag{2.10}\]が成り立つと予想される.
 
数値実験によれば, \((2.10)\) は任意の \(l\in\mathbb{N}\) について成り立つから, これが示せれば, \((2.9)\) には \(6\) 以外の (偶数の) 完全数がすべて含まれることが示せる.
 
 証明は困難かと思われたが, 実際には簡単に片づいた. \((2.3)\) より,\[\sum_{i\!\:=\!\:1}^{2^l-1}\,(-1)^{2^l-1-i}\,(T_{2}(i))^2
=\sum_{j\!\:=\!\:1}^{2^{l-1}}\,(2j\!-\!1)^3\]であるから, \((1.2)\) を用いた等式変形より \((2.10)\) の右辺が得られる.
 系として,
6以外の (偶数の) 完全数は連続した正の奇数の立法和で表せることが従う.
 

 
§3.交代和と二項係数(1)
 \((2.8)\) のような \(T_{2}(k)\) の交代和について, 項数を3項に固定して中央項の係数を2に変えてみると,\[\begin{equation}\begin{split}T_{2}(3)\!\:-\,
&2\,T_{2}(2)+T_{2}(1)\\&=(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)-2\cdot(2^2\!-\!1^2)+1^2=1\\
\\
T_{2}(4)\!\:-\,&2\,T_{2}(3)+T_{2}(2)^{ }\\
&=(4^2\!-\!3^2\!+\!2^2\!-\!1^2)-2\cdot(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)+(2^2\!-\!1^2)=1\\
\\
T_{2}(5)\!\:-\,&2\,T_{2}(4)+T_{2}(3)^{ }\\
&=(5^2\!-\!4^2\!+\!3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)-2
\cdot(4^2\!-\!3^2\!+\!2^2\!-\!1^2)+(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)=1\\
\end{split}\end{equation}\]などが成り立つから, これより, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について, 恒等式\[\begin{equation}\begin{split}
\textcolor{blue}{T_{2}(k\!+\!2)-2\,T_{2}(k\!+\!1)+T_{2}(k)=1}
\end{split}\end{equation}\tag{3.1}\]が得られる. これは, \((2.2)\) を用いた同値変形により示せる.
 
 \((3.1)\) においては, \(k\!+\!2, \,k\!+\!1,\,k\) という3個の連続した自然数を用いたが, これを公差1の等差数列の連続3項と見て, 以下, これを公差 \(d\in\mathbb{N}\) の等差数列における連続項として考えよう.
 たとえば, \(d\!=\!2\) とすれば, \[\begin{equation}\begin{split}T_{2}(5)\!\:-\,
&2\,T_{2}(3)+T_{2}(1)\\&=(5^2\!-\!4^2\!+\!3^2\!-
\!2^2\!+\!1^2)-2\cdot(3^2\!-\!2^2\!-\!1^2)+1^2\\
&=5^2\!-\!4^2\!-\!3^2\!-\!2^2=4\\
\\
T_{2}(6)\!\:-\,&2\,T_{2}(4)+T_{2}(2)^{ }\\
&=(6^2\!-\!5^2\!+\!4^2\!-\!3^2\!+\!2^2\!-\!1^2)-2
\cdot(4^2\!-\!3^2\!+\!2^2\!-\!1^2)+(2^2\!-\!1^2)\\
&=6^2\!-\!5^2\!-\!4^2\!+\!3^2=4\\
\\
T_{2}(7)\!\:-\,&2\,T_{2}(5)+T_{2}(3)^{ }\\
&=(7^2\!-\!6^2\!+\cdots-\!2^2\!+\!1^2)-2
\cdot(5^2\!-\!4^2\!+\cdots-\!1^2)+(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)\\
&=7^2\!-\!6^2\!-\!5^2\!+\!4^2=4\\\end{split}\end{equation}\]などが成り立つから, これより, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について, 恒等式\[\begin{equation}\begin{split}\textcolor{blue}{T_{2}(k\!+\!4)-}
&\textcolor{blue}{2\,T_{2}(k\!+\!2)+T_{2}(k)}\\
&\textcolor{blue}{=(k\!+\!4)^2-(k\!+\!3)^2-(k\!+\!2)^2+(k\!+\!1)^2=4}
\end{split}\end{equation}\tag{3.2}\]が得られる. これは, \((2.1)\) を用いた同値変形により示せる.
 
 \(d\) を種々の値に換えて数値実験を試みれば, これらを一般化した関係式が得られる. すなわち, \(d\in\mathbb{N}\) を定数とするとき, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について, 恒等式\[\begin{equation}\begin{split}\textcolor{red}{T_{2}(k\!+\!2d\!\:)\!\:-\,}
&\textcolor{red}{2\,T_{2}(k\!+\!d\!\:)+T_{2}(k)\,}&\textcolor{red}
{=d^{\!\:2}}\end{split}\end{equation}\tag{3.3}\]が成り立つ. これは, \((3.2)\) の場合と同様, \((2.1)\) を用いた同値変形により示せる.
 
 次に, \((3.3)\) の左辺における各項の係数を二項係数と見て, その一般化を考えよう. \((3.1)\) で3項に固定した項数を一つ増やしてみると, \[\begin{equation}\begin{split}
&\:\:\:\:\:T_{2}(4)\!\:-3\,T_{2}(3)+3\,T_{2}(2)-T_{2}(1)\\
&=(4^2\!-\!3^2\!+\!2^2\!-\!1^2)-3\cdot(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)+3\cdot(2^2\!-\!1^2)-1^2\\
&=4^2\!-\!4\cdot3^2\!+\!7\cdot2^2\!-\!8\cdot1^2=0\\
\\
&\:\:\:\:\:T_{2}(5)\!\:-3\,T_{2}(4)+3\,T_{2}(3)-T_{2}(2)^{ }\\
&=(5^2\!-\!4^2\!+\!3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)-3\cdot(4^2\!-\!3^2\!+\!2^2\!-\!1^2)
+3\cdot(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)-(2^2\!-\!1^2)\\
&=5^2\!-\!4\cdot4^2\!+\!7\cdot3^2\!-\!8\cdot(2^2\!-\!1^2)=0\\
\\
&\:\:\:\:\:T_{2}(6)\!\:-3\,T_{2}(5)+3\,T_{2}(4)-T_{3}(3)^{ }\\
&=(6^2\!-\cdots-\!1^2)-3\cdot(5^2\!-\cdots+\!1^2)+
3\cdot(4^2\!-\cdots-\!1^2)-(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)\\
&=6^2\!-\!4\cdot5^2\!+\!7\cdot4^2\!-\!8\cdot(3^2\!-\!2^2\!+\!1^2)=0
\end{split}\end{equation}\]などが成り立つから, これより, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について, 恒等式
\[\begin{equation}\begin{split}\textcolor{blue}
{T_{2}(k\!+\!3)-3\,T_{2}(k\!+\!2)+3\,T_{2}(k\!+\!1)-T_{2}(k)=0}
\end{split}\end{equation}\tag{3.4}\]が得られる. これは, \((3.3)\) を用いた同値変形により示せる.
 
 さらに項数を増やして数値実験を試みれば, \((3.3)\) と同様の関係式が得られるから, これを一般化すれば, \(l\geq3\:(\!\:l\in\mathbb{N}\!\:)\,\)を定数とするとき, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について, 恒等式
\[\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}
\binom{l}{\,i\,}\,T_{2}(\!\:k\!+\!i\!\:)=0}\tag{3.5}\]
が成り立つと予想される.
 証明は, 数学的帰納法による.
 まず, \(l\!=\!3\) については恒等式 \((3.4)\) すなわち \((3.5)\) が得られ, \((3.4)\) を用いれば\[\begin{equation}\begin{split}
&\:\:\:\:\:T_{2}(k\!+\!4)-4\,T_{2}(k\!+\!3)+6\,T_{2}(k\!+\!2)-4\,T_{2}(k\!+\!1)+T_{2}(k)\\
&={\left(T_{2}(k\!+\!4)-3\,T_{2}(k\!+\!3)+3\,T_{2}(k\!+\!2)-T_{2}(k\!+\!1)\right)}^{ }\\
&\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:-\,\,{\left(T_{2}(k\!+\!3)
-3\,T_{2}(k\!+\!2)+3\,T_{2}(k\!+\!1)-T_{2}(k\right))}^{ }
\end{split}\end{equation}\]が得られるから, \(l\!=\!4\) についても \((3.5)\) が成り立つ.
 次に, ある \(l\in\mathbb{N}\) について恒等式 \((3.5)\) が成り立つとすれば, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,\[\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}
\binom{l}{\,i\,}\,T_{2}((k\!+\!1)\!+\!i)
=0\]\[\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}\binom{l\!}{\,i\,}\,T_{2}(k\!+\!i)=0\]が成り立つから, これらを辺々引けば,
\[\begin{equation}\begin{split}&\:\:\:\:\:
\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}\binom{l}{\,i\,}\,T_{2}((k\!+\!1)\!+\!i)
-\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}\binom{l}{\,i\,}\,T_{2}(k\!+\!i)\\
&=(-1)^{(l+1)-(l+1)}\,\binom{l}{\,l\,}\,T_{2}(\!\:k+l\!+\!1)
-\sum_{i\!\:=\!\:1}^{l}\,(-1)^{l-i}\binom{l}{i\!-\!1}\,T_{2}(k\!+\!i)\\
&\:\:\:\:\:-\sum_{i\!\:=\!\:1}^{l}\,(-1)^{l-i}\binom{l}{\,i\,}\,T_{2}(k\!+\!i)
-(-1)^{l}\binom{\,l\,}{0}\,T_{2}(k)\\
&={T_{2}(\!\:k+l\!+\!1)}^{ }\\
&\:\:\:\:\:-\left(\,\sum_{i\!\:=\!:1}^{l}\,(-1)^{l-i}\binom{l}{\!\:i\!-\!1\!\:}\,T_{2}(k\!+\!i)
+\sum_{i\!\:=\!\:1}^{l}\,(-1)^{l-i}\binom{\,l\,}{i}\,T_{2}(k\!+\!i)\right)
-(-1)^{l}\,T_{2}(k)\\
&=T_{2}(\!\:k+l\!+\!1)-\left(\,\sum_{i\!\:=\!\:1}^{l}\,(-1)^{l-i}
\,\binom{l\!+\!1}{i}\,T_{2}(k\!+\!i)\right)
+(-1)^{l+1}\,T_{2}(k)\\
&=\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l+1}\,(-1)^{l+1-i}\,\binom{l\!+\!1}{i}\,T_{2}(k\!+\!i)
=0\end{split}\end{equation}\]が得られ, したがって, \(l\!+\!1\) についても \((3.5)\) が成り立つ.\(\blacksquare\)
 
 \((3.5)\) はさらに拡張できる. すなわち, \(d\in\mathbb{N}\) を定数とするとき, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,\[\begin{equation}\begin{split}\textcolor{blue}{T_{2}(k\!+\!3d\!\:)
-3\,T_{2}(k\!+\!2d\!\:)+3\,T_{2}(k\!+\!d\!\:)-T_{2}(k)}
&\textcolor{blue}{=0}\end{split}\end{equation}\]
が成り立ち, さらに項数を増やすと, \(l\geq3\)\(\,\,(\!\:l\in\mathbb{N}\!\:)\,\)を定数とするとき, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) についての恒等式
\[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}\,
\binom{l}{\,i\,}\,T_{2}(k\!+\!id\!\:)=0}\]が得られる. これは, \((3.5)\) の証明と同様の手法を用いた数学的帰納法により示せる.

 

 
§4.交代和と二項係数(2)
 次に, 交代立方和 \(\textcolor{blue}{T_{3}(k)=
\displaystyle{\sum_{j\!\:=\!\:1}^{k}\,(-1)^{k-j}\,j^{\!\:3}}}\)
\[\begin{equation}\begin{split}&T_{3}(1)=1^3=1\\
&T_{3}(2)=2^3\!-\!1^3=7\\
&T_{3}(3)=3^3\!-\!2^3\!+\!1^3=20\\
&T_{3}(4)=4^3\!-\!3^3\!+\!2^3\!-\!1^3=44\\
&T_{3}(5)=5^3\!-\!4^3\!+\!3^3\!-\!2^3\!+\!1^3=81\\
&T_{3}(6)=6^3\!-\!5^3\!+\!4^3\!-\!3^3\!+\!2^3\!-\!1^3=135\\
\end{split}\end{equation}\tag{4.1}\]を考えよう.
 
 交代平方和 \(T_{2}(k)\) については \((2.1)\) のような簡単な表記法が知られているが, 一般の
交代冪和 \[T_{n}(k)
=\sum_{j\!\:=\!\:1}^{k}\,(-1)^{k-j}\,j^{\!\:n}\]
についてその一般項を求めることは難しく, 現時点では特定の \(n\) についていくつか発見されているに過ぎない. たとえば, \(T_{3}(k)\) については,
\[T_{3}(k)=\frac{1}{\!\:8\!\:}\left|\!\:(-1)^k\,(4k^3\!+\!6k^2\!-\!1)\!+\!1\,\right|\]であることが10年ほど前に発見されたようである (Henry Bottomley, 2000). 
 
 \((4.1)\) の各等式を辺々加えれば,\[\begin{equation}\begin{split}
T_{3}(1)&=1^3=\frac{\,(-1)^{1-1}\!+\!1\,}{2}\cdot1^3\\
T_{3}(1)\!+\!T_{3}(2)&=2^3=\frac{\,(-1)^{2-1}\!+\!1\,}{2}
\cdot1^3\!+\!\frac{\,(-1)^{2-2}\!+\!1\,}{2}\cdot2^3\\
T_{3}(1)\!+\!T_{3}(2)\!+\!T_{3}(3)&=3^3\!+\!1^3\\
&=\frac{(-1)^{3-1}\!+\!1}{2}\!\cdot\!1^3\!+\!\frac{(-1)^{3-2}\!+\!1}{2}
\!\cdot\!2^3\!+\!\frac{(-1)^{3-3}\!+\!1}{2}\!\cdot\!3^3\\
\sum_{i\!\:=\!\:1}^{4}\,T_{3}(i)&=4^3\!+\!2^3=
\sum_{i\!\:=\!\:1}^{4}\,\frac{\,(-1)^{4-i}\!+\!1\,}{2}\,i^3\\
\sum_{i\!\:=\!\:1}^{5}\,T_{3}(i)&=5^3\!+\!3^3\!+\!1^3=\sum_{i\!\:=\!\:1}^{5}
\,\frac{\,(-1)^{5-i}\!+\!1\,}{2}\,i^3\\
\sum_{i\!\:=\!\:1}^{6}\,T_{3}(i)&=6^3\!+\!4^3\!+\!2^3=\sum_{i\!\:=\!\:1}^{6}
\,\frac{\,(-1)^{6-i}\!+\!1\,}{2}\,i^3\\
\end{split}\end{equation}\]などが成り立つ. これより, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について, \[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\,T_{3}(i)
=\sum_{i\!\:=\!\:1}^{k}\frac{\,(-1)^{k-i}\!+\!1\,}{2}\,i^3}\]が得られる. これは, \(k\) の偶奇別に \((1.2)\) を用いた各辺の同値変形により示せる.
 
 \(T_{2}(k)\) の場合と同様, \(T_{3}(k)\) の交代和についても各項を二項係数に変えてみよう. 以下, 膨大なる数値計算と煩雑なる証明については割愛して, 結果のみを記しておく.
 
 まず, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,\[\begin{equation}\begin{split}
&\:\:\:\:\:\:\sum_{i\!\:=\!\:0}^{3}\,(-1)^{3-i}\,\binom{3}{\,i\,}\,T_{3}(k\!+\!i\!\:)\\
&=T_{3}(k\!+\!3)-3\,T_{3}(k\!+\!2)+3\,T_{3}(k\!+\!1)-T_{3}(k)^{ }=3+{(-1)^{k-1}}^{ }
\end{split}\end{equation}\]が成り立ち, \(\,l\!\geq\!4\)\(\,\,(\!\:l\in\mathbb{N}\!\:)\,\)を定数とするとき, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,\[\begin{equation}\begin{split}
\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}\,\binom{l}{\,i\,}
\,T_{3}(k\!+\!i\!\:)^{ }=(-1)^{l+k}\cdot 2^{\!\:l-3}
\end{split}\end{equation}\]が成り立つ.
 
 次に, 各項の \(k\) を公差 \(d\!\!\:\geq\!\!\:2\,\!\:(\!\:d\in\mathbb{N}\!\:)\) の等差数列の連続項に置き換えてみると, やはり種々の新たな関係式が得られる.
 まず, \(d\!=\!2\) とおくと, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,\[\begin{equation}\begin{split}
&\:\:\:\:\:\:\sum_{i\!\:=\!\:0}^{3}\,(-1)^{3-i}\,\binom{3}{\,i\,}\,T_{3}(k\!+\!2i\!\:)\\
&=T_{3}(k\!+\!6)-3\,T_{3}(k\!+\!4)+3\,T_{3}(k\!+\!2)-T_{3}(k)^{ }=24^{ }\\
\end{split}\end{equation}\] が成り立ち, \(\,l\!\geq\!4\)\(\,\,(\!\:l\in\mathbb{N}\!\:)\,\)を定数とするとき, \[\begin{equation}\begin{split}
\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}\,\binom{l}{\,i\,}\,T_{3}(k\!+\!2i\!\:)=0
\end{split}\end{equation}\]が成り立つ.
 また, \(d\!=\!3\) とおくと, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,\[\begin{equation}\begin{split}
\:\:\:\:\:\:\sum_{i\!\:=\!\:0}^{3}\,(-1)^{3-i}
\,\binom{3}{\,i\,}\,T_{3}(k\!+\!3i\!\:)=3^4\!+\!(-1)^{k-1}
\end{split}\end{equation}\]
が成り立ち, \(\,l\!\geq\!4\)\(\,\,(\!\:l\in\mathbb{N}\!\:)\,\)を定数とするとき, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,\[\begin{equation}\begin{split}
\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}\,\binom{l}{\,i\,}\,T_{3}(k\!+\!3i\!\:)=(-1)^{l+k}\cdot 2^{\!\:l-3}
\end{split}\end{equation}\]
が成り立つ.
 
 一般に, \(d\in\mathbb{N}\) を与えられた定数とすると, \(l\!=\!3\,\)のとき, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,
\[\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{3}\,(-1)^{3-i}\,\binom{3}{\,i\,}\,T_{3}(k\!+\!id\!\:)
=\begin{cases}\,3\!\:d^{\!\:3}\!+\!(-1)^{k-1}\:\:(\,d\!\equiv\!1\:\:\textrm{mod}\:2\,)\\
\,{3\!\:d^{\!\:3}}^{ }\:\:(\,d\!\equiv\!0\:\:\textrm{mod}\:2\,)
\end{cases}}\tag{4.2}\]が成り立ち, \(l\!\geq\!4\,\,(\!\:l\in\mathbb{N}\!\:)\,\)のとき, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,
\[\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}\,\binom{l}{\,i\,}\,T_{3}(k\!+\!id\!\:)=
\begin{cases}\,(-1)^{l+k}\cdot 2^{\!\:l-3}\:\:(\,d\!\equiv\!1\:\:\textrm{mod}\:2\,)\\
\,0\:\:\:\:{(\,d\!\equiv\!0\:\:\textrm{mod}\:2\,)}^{{}^{ }}\end{cases}}\tag{4.3}\]が成り立つ.
 
 このような関係式を, 一般の交代冪和 \((1.3)\) の場合, すなわち\[\sum_{i\!\:=\!\:1}^{l}
\,(-1)^{l-i}\,\binom{l}{\,i\,}\,T_{n}(k\!+\!id\!\:)\] へと拡張してみよう. EXCELを用いて数値実験を試みれば, 上記のような関係式が次々と得られる.
 
 まず, \((4.2)\) と同様の関係式については, \(d\in\mathbb{N}\) を与えられた偶数定数とすると, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,\[\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{n}\,(-1)^{n-i}\,\binom{n}{\,i\,}\,T_{n}(k\!+\!id\!\:)
=\,\frac{n\!\:!}{\,2\,}\!\:d^{\!\:n}}\]が成り立つ. \(\:n,\,d\) がともに奇数の場合は, \((4.2)\) のほか, \[\begin{equation}\begin{split}
&\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{5}\,(-1)^{5-i}\,\binom{5}{\,i\,}\,T_{5}(k\!+\!\!\:\!\:id\!\:)
=\frac{\!\:5\!\:!\!\:}{\,2\,}\!\:d^{\!\:5}\!+\!(-1)^{k}\!\cdot 8\:}\\
&\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{7}\,(-1)^{7-i}\,\binom{7}{\,i\,}\,T_{7}(k\!+\!id\!\:)
=\frac{\!\:7\!\:!\!\:}{\,2\,}\!\:d^{\!\:7}\!+\!\:\!\:\!(-1)^{k-1}\!\cdot 2^3\!\cdot 17\:}\\
&\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{9}\,(-1)^{9-i}\,\binom{9}{\,i\,}\,T_{9}(k\!+\!id\!\:)
=\frac{\!\:9\!\:!\!\:}{\,2\,}\!\:d^{\!\:9}\!+\!\:\!\!\:(-1)^{k}\!\cdot 2^7\!\cdot 31\:}\\
&\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{11}\,(-1)^{11-i}\,\binom{11}{\,i\,}\,T_{11}(k\!+\!id\!\:)
=\frac{\!\:11\!\:!\!\:}{\,2\,}\!\:d^{\!\:11}\!+\!\:\!\!\:(-1)^{k-1}
\!\cdot 2^8\!\cdot 691\:}\end{split}\end{equation}\]などが成り立つ. 一般に, \(n\geq2\,(\!\:n\in\mathbb{N}\!\:)\), \(d\in\mathbb{N}\) を与えられた定数とすると, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,\[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{n}\,(-1)^{n-i}
\,\binom{n}{\,i\,}\,T_{n}(k\!+\!\!\:\!\:id\!\:)
=\begin{cases}\,\displaystyle{\frac{\!\:n\!\:!\!\:}{\,2\,}}
\!\:d^{\!\:n}\!+\!(-1)^{\left[\frac{n}{\,2^{ }\!\!}\right]+k}
\!\cdot \tau_{n}\:\:(\,nd\!\equiv\!1\:\:\textrm{mod}\:2\,)\\
\,\displaystyle{\frac{\!\:n\!\:!\!\:}{\,2\,}}{\!\:d^{\!\:n}}^{ }
\:(\,nd\!\equiv\!0\:\:\textrm{mod}\:2\,)\end{cases}}\tag{4.4}\]が成り立つと予想される.
 
 また, \((4.3)\) と同様の関係式については, \(n\geq2\,(\!\:n\in\mathbb{N}\!\:)\), \(l\geq n\!+\!1\,\,(\!\:l\in\mathbb{N}\!\:)\,\), \(d\in\mathbb{N}\,\)を与えられた定数とするとき, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) について,
\[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{l}\,(-1)^{l-i}\,\binom{l}{\,i\,}\,T_{n}(k\!+\!id\!\:)
=\begin{cases}\,(-1)^{\left[\frac{\!\:n\,+\,1\!\:}{\,2^{ }\!\!}\right]+l+k}
\cdot 2^{\!\:l-n}\cdot\tau_{n}\:\:(\,nd\!\equiv\!1\:\:\textrm{mod}\:2\,)\\
{{\,\,{0}^{ }}}\:{{(\,nd\!\equiv\!0\:\:
\textrm{mod}\:2\,)}^{ }}_{ }\end{cases}}\tag{4.5}\]が成り立つと予想される.
 
 実は, 筆者は \((4.4),\,(4.5)\) の証明を完全には得ていない.
障碍となるのは \(\tau_{n}\) の存在であり, これを定式化できていないためである.
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 ★2021年 付記★
  研究会における本稿発表時 (2011年2月) には発見されていなかったが, その後,
上記の \(\tau_{n}\) と本質的に同値な定数が多重対数関数あるいはゼータ関数などを用いて定式化されたようである.
 
 たとえば, Jean-François Alcover, 2016 による表記を用いれば, 上記の \(\tau_{n}\) は, \(n=2j\!+\!1\,(\,j\in\mathbb{N}\,)\) とおいて
\[\tau_{n}=\frac{\,(4^{j+1}\!-\!1)\,\Gamma(2j\!+\!2)\,
\zeta(2j\!+\!2)\,}{\pi^{2j+2}}\]
(ただし, \( \Gamma(z)\) はガンマ関数, \(\zeta(z)\) は Riemannのゼータ関数)
のように表せる.
 残念ながら, 筆者はこれらの証明を入手できていない. 現時点では, \[\tau_{3}=1, \,\,\tau_{5}=8,\,\,
\tau_{7}=136,\,\,\tau_{9}=3968,\,\,\tau_{11}=176896,\,\,\cdots\cdots\]など, いくつかの \(n\) について, EXCELによる数値計算をもってこれが成り立つことを確認したのみである.
 
 余談であるが, 本稿の発表を準備していた2010年頃, \((4.5)\) に現れた
\(\tau_{11}\) の素因数\(691\)を見て, ゼータ関数または Bernoulli 数を用いて表せるのではと予想したのであったが, 浅学菲才なる筆者にはそれ以上なすすべがなかった. \((4.5)\) において記号 \(\tau\) を用いたのは, 保型形式論における Ramanujan の \(\tau\) 関数の性質
 \(p\:\)が素数\(\:\Longrightarrow\tau \,(p)\equiv 1\!+\!p^{\textcolor{blue}{11}}
\,\,(\textrm{mod}\,\textcolor{blue}{691})\,\)
を連想したことによる.
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§5.S.M.Ruiz の恒等式
 前節までは, 交代和の交代和に二項係数を重ね合わせた恒等式を考えたが, 本節では, より単純に冪乗数の交代和に二項係数を重ね合わせることにしよう.
 たとえば, 平方数の交代和については,\[\begin{equation}\begin{split}3^2-2\cdot2^2+1^2&=&\,\,2\\
4^2-2\cdot3^2+2^2&=&\,\,2\\5^2-2\cdot4^2+3^2&=&\,\,2\\
6^2-2\cdot5^2+4^2&=&\,\,2\end{split}\end{equation}\]などが成り立つから, これより, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) についての恒等式\[(k\!+\!2)^2\!-2\,(k\!+\!1)^2\!+k^2=\,2\]が得られる. 同様に数値実験を繰り返せば, \[\begin{equation}\begin{split}&(k\!+\!3)^3
\!-3\,(k\!+\!2)^3\!+3\,(k\!+\!1)^3\!-k^3&=&\,\,6\\
&(k\!+\!4)^4\!-4\,(k\!+\!3)^4\!+6\,(k\!+\!2)^4\!-4\,(k\!+\!1)^4\!+k^4&=&\,\,24\\
&(k\!+\!5)^5\!-5\,(k\!+\!4)^5\!+10\,(k\!+\!3)^5\!-10
\,(k\!+\!2)^5\!+5\,(k\!+\!1)^5\!-k^5&=&\,\,120\\
&(k\!+\!6)^6\!-6\,(k\!+\!5)^6\!+15\,(k\!+\!4)^6\!-20\,(k\!+\!3)^6+15
\,(k\!+\!2)^6-6\,(k\!+\!1)^6\!+k^6&=&\,\,720\\
\end{split}\end{equation}\]などが得られるから, これより, \(n\in\mathbb{N}\) を与えられた定数として, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) についての恒等式 \[\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{n}\,(-1)^{n-i}
\,\binom{n}{\,i\,}\,(k\!+\!i)^n=\,n\!\:!}\tag{5.1}\]が成り立つと予想される.
 
 次に, 公差 \(d\in\mathbb{N}\) を付け加えて数値実験を繰り返せば, \[\begin{equation}\begin{split}&(k\!+\!2d\!\:)^2
\!-2\,(k\!+\!d\!\:)^2\!+k^2&=&\,\,2\!\:!\,d^{\!\:2}\\
&(k\!+\!3d\!\:)^3\!-3\,(k\!+\!2d\!\:)^3
\!+3\,(k\!+\!d\!\:)^3\!-k^3&=&\,\,3\!\:!\,d^{\:\!3}\\
&(k\!+\!4d\!\:)^4\!-4\,(k\!+\!3d\!\:)^4\!+6\,(k\!+\!2d\!\:)^4
\!-4\,(k\!+\!d\!\:)^4\!+k^4&=&\,\,4\!\:!\,d^{\!\:4}\\
&\sum_{i\!\:=\!\:0}^{5}\,(-1)^{5-i}\,\binom{5}{\,i\,}
\,(k\!+\!id\!\:)^5&=&\,\,5\!\:!\,d^{\!\:5}\\
&\sum_{i\!\:=\!\:0}^{6}\,(-1)^{6-i}\,\binom{6}{\,i\,}
\,(k\!+\!id\!\:)^6&=&\,\,6\!\:!\,d^{\!\:6}\\
\end{split}\end{equation}\]などが得られるから, これより, \(n\in\mathbb{N}\) を与えられた定数として, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) についての恒等式 \[\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{n}\,(-1)^{n-i}
\,\binom{n}{\,i\,}\,(k\!+\!id)^n=\,d^{\!\:n}n\!\:!}\tag{5.2}\]が成り立つと予想される.
 
 上の恒等式において, 左辺の各項の指数を一つずつ減らしてみると,\[\begin{equation}\begin{split}
&(k\!+\!2d)^1\!-2\,(k\!+\!d)^1\!+k^1&=&\,\,0\\
&(k\!+\!3d)^2\!-3\,(k\!+\!2d)^2\!+3\,(k\!+\!d)^2\!-k^2&=&\,\,0\\
&(k\!+\!4d)^3\!-4\,(k\!+\!3d)^3\!+6\,(k\!+\!2d)^3\!-4\,(k\!+\!d)^3\!+k^3&=&\,\,0\\
&\sum_{i\!\:=\!\:0}^{5}\,(-1)^{5-i}\,\binom{5}{\,i\,}\,(k\!+\!id)^4&=&\,\,0\\
&\sum_{i\!\:=\!\:0}^{6}\,(-1)^{6-i}\,\binom{6}{\,i\,}\,(k\!+\!id)^5&=&\,\,0\\
\end{split}\end{equation}\]などが成り立つから, これより, \(n\in\mathbb{N}\) を与えられた定数として, 任意の \(k\in\mathbb{N}\) についての恒等式 \[\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{n}\,(-1)^{n-i}
\,\binom{n}{\,i\,}\,(k\!+\!id)^{n-1}=\,0}\tag{5.3}\]が成り立つと予想される.
 
 \((5.1)\) から \((5.3)\) までは, いずれも \(k\) についての恒等式である. 前節以前は, \(T_{n}(k)\) の定義から \(k\in\mathbb{N}\) なる条件が必要であったが, 本節にける恒等式においてはその限りではない.
 そこで, 以下, \(k\) を \(x\in\mathbb{R}\) に置き換え, 公差 \(d\) を正数 \(m\in\mathbb{R}^{+}\!\) に置き換えることにすれば, \(x\) についての恒等式\[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{n}\,(-1)^{n-i}\,
\binom{n}{\,i\,}\,(x\!+\!im)^n=\,m^{\!\:n}n\!\:!}\tag{5.4}\]が得られる.
 
 比較的きれいな形をしているので, 既知の等式であろうと予想して調べてみると, \((5.4)\) において \(m\!=\!1\) とした場合と同値の恒等式\[\textcolor{blue}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{n}\,(-1)^i
\,\binom{n}{\,i\,}\,(x\!-\!i)^n=n\!\:!}\tag{5.5}\]を Sebastián Martín Ruiz の論文 [6] に見出した.
 
 この恒等式は, Wolfram MathWorld において "Binomial Sums" の「興味深い一般化」として紹介されている. Ruiz の論文では, 数論における Wilson の定理の別証を与えるための補題としてこの恒等式が用いられ, 微分を援用した数学的帰納法によって証明されている. [6] では \((5.5)\) が唐突に提示されるため, これがいかなる経緯から得られたのかについては何も記されていないが, おそらくは第2種Stirling数に起因するものではないかと思われる.
 
 なお, Ruiz の論文におけるこの恒等式を, [7] は "rediscovered " であるとして
" Euler's formula " の名称で紹介している. その一方で, Wilson の定理の証明については Ruiz の方法を採用しているのである ([7] p.330, CORROLLARY 7.1).
 
 ところで, \(n\!>\!r\) をみたす任意の \(r\in\mathbb{R^{+}\!}\) について, \((5.3)\) の一般化である\[\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:0}^{n}\,(-1)^{n-i}\,
\binom{n}{\,i\,}\,(x\!+\!im)^{n-r}=\,0}\tag{5.5}\]を得る方法も Ruiz の論文中にある. これは, \((5.4)\) の両辺に \(r\) 階微分 \(\displaystyle{\frac{d^{\!\:r}}{dx^r}}\) を施すことにより示せる.
 

 
§6.S.M.の恒等式
 \((3.2)\) に現れた \(k\in\mathbb{N}\) についての恒等式 \[(k\!+\!4)^2\!-\!(k\!+\!3)^2\!-
\!(k\!+\!2)^2\!+\!(k\!+\!1)^2=4\]
は, (本稿で紹介した流れとは無関係に, 単発的な計算遊戯の中で) 筆者が中学3年生時に発見した思い出深い恒等式である.
 当時,「恒等式」という名称は知らなかったが, 4個の連続平方数であればどのような数で計算しても結果が必ず定数になるという事実に興味をおぼえた. そこで, この等式の指数を 3, 4, ……などに換えた場合についても同様の等式が得られないかを模索してみたが, 結局は発見できなかった.
 今回, \((3.2)\) を証明する中で,
指数についてこれを拡張する方法を見出したので, 本節ではそれを紹介することにしよう. なお, \((3.2)\) の左辺は純粋な交代和ではないため,「疑似交代和」あるいは「非対称交代和」とよぶことにする.
 
 \((3.2)\) より,\[\begin{equation}\begin{split}&\:\:\:\:\:
(T_{2}(k\!+\!8)\!-\!T_{2}(k\!+\!6)\!-\!T_{2}(k\!+\!4))-(T_{2}(k\!+\!4)
\!-\!T_{2}(k\!+\!2)\!-\!T_{2}(k))\\
&=(k\!+\!7)^2\!-(k\!+\!6)^2\!-(k\!+\!5)^2\!+(k\!+\!4)^2\!-(k\!+\!3)^2\!
+(k\!+\!2)^2\!+(k\!+\!1)^2\!-k^2=0\end{split}\end{equation}\]すなわち,\[\begin{equation}\begin{split}8^2\!-7^2\!-6^2\!+5^2\!-4^2\!+3^2\!+2^2\!-1^2\!&=&\,\,0\\
9^2\!-8^2\!-7^2\!+6^2\!-5^2\!+4^2\!+3^2\!-2^2\!&=&\,\,0\\
10^2\!-9^2\!-8^2\!+7^2\!-6^2\!+5^2\!+4^2\!-3^2\!&=&\,\,0\\
11^2\!-10^2\!-9^2\!+8^2\!-7^2\!+6^2\!+5^2\!-4^2\!&=&\,\,0\\
\end{split}\end{equation}\tag{6.1}\]などが得られる.
 これ自体は \((3.2)\) から当然の結果であるが, 指数を一つ減らして \((5.3)\) を得たこととは逆に, ここでは指数を一つ増やして計算してみると,\[\begin{equation}\begin{split}8^3
\!-7^3\!-6^3\!+5^3\!-4^3\!+3^3\!+2^3\!-1^3\!&=&\,\,48\\
9^3\!-8^3\!-7^3\!+6^3\!-5^3\!+4^3\!+3^3\!-2^3\!&=&\,\,48\\
10^3\!-9^3\!-8^3\!+7^3\!-6^3\!+5^3\!+4^3\!-3^3\!&=&\,\,48\\
11^3\!-10^3\!-9^3\!+8^3\!-7^3\!+6^3\!+5^3\!-4^3\!&=&\,\,48\\
\end{split}\end{equation}\]すなわち, \(k\in\mathbb{N}\) についての恒等式\[\begin{equation}\begin{split}&(k\!+\!7)^3\!
-(k\!+\!6)^3\!-(k\!+\!5)^3\!+(k\!+\!4)^3\\
&\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:-\,(k\!+\!3)^3\!
+(k\!+\!2)^3\!+(k\!+\!1)^3\!-k^3=48\end{split}\end{equation}\]
が得られる.
 これは, 8個の連続立方数についての疑似交代和である.
 
 同様の手法をもって, 16個の連続4乗数, 32個の連続5乗数, ……について数値計算を繰り返せば, 疑似交代和による恒等式\[\begin{equation}\begin{split}&\textcolor{blue}{(k\!+\!16)^4\!-(k\!+\!15)^4\!
-(k\!+\!14)^4\!+\cdots-(k\!+\!2)^4\!+(k\!+\!1)^4=1536}\\
&\textcolor{blue}{(k\!+\!32)^5\!-(k\!+\!31)^5\!-(k\!+\!30)^5\!
+\cdots+(k\!+\!2)^5\!-(k\!+\!1)^5=122880}\\
&\textcolor{blue}{(k\!+\!64)^6\!-(k\!+\!63)^6\!-(k\!+\!62)^6\!
+\cdots-(k\!+\!2)^6\!+(k\!+\!1)^6=23592960}\\
\end{split}\end{equation}\]などが得られる.
 
 さて, 以後, 膨大なる数値計算を試み, その結果から一定の法則性を見出す作業を経ることになるが, そのあたりの苦労話や詳細については割愛して結果のみを述べよう.
 
 前節と同様, 本節でも \(k\) を \(x\in\mathbb{R}\) に置き換え, 公差を正数 \(m\in\mathbb{R}^{+}\!\) に置き換えることにすると, \(x\) についての恒等式\[\begin{equation}\begin{split}\textcolor{red}{\sum_{i\!\:=\!\:1}^{2^n}\,
\varphi_{i}\,(x\!-\!im)^n=2^{\frac{\,n\,(\!\:n-1\!\:)\,}{2^{ }\!\!}}m^n\,n\!\:!}\\
\left( \varphi_{i}=(-1)^{i-1} \prod_{h\!\:=\!\:1}^{\infty} (-1)^{\left[ \frac{\;i\,-\,1\;}{{\scriptsize 2}^{\,h}}\right]} \right) \end{split}\end{equation}\tag{6.2}\]が成り立つと予想される. ここで, \(\varphi_{i}\) は, \(\pm 1\) のいずれかの値をとり,\[\begin{eqnarray}\varphi_{2^h+i}&=&(-1)^{2^h+i-1}\prod_{h\!\:=\!\:1}^{\infty}
(-1)^{\left[ \frac{\;2^h\,+\,i\,-\,1\;}{{\scriptsize 2}^{\,h}}\right]}\\&=&-(-1)^{i-1}
\prod_{h\!\:=\!\:1}^{\infty}(-1)^{\left[ \frac{\;i\,-\,1\;}{{\scriptsize 2}^{\,h}}\right]}\\&=&-\varphi_{i}\end{eqnarray}\]であることより, \(\varphi_{i}\) は, 漸化式
\[\begin{equation}\begin{split}\textcolor{red}{\varphi_{1}=}&
\textcolor{red}{1, \;\;\varphi_{2}=-1, \;\;\varphi_{2^h+i}=-\,\varphi_{i}}\\
&(\,i, h\in \mathbb{N}, \;\;0\!<\!i\!\leq \!2^h)^{ }\end{split}\end{equation}\tag{6.3}\]
をみたす.
 証明は, 数学的帰納法による.
 \(n\!=\!1\) については明白であるから, ある \(n\in\mathbb{N}\) について \((6.2)\) を仮定し, \(x\!\in \mathbb{R}\) を \(t\in \mathbb{R}\) に置き換えた上で, これを \(t\) の関数と見た形式的な定積分\[(n\!+\!1)\int_{x-2^n\,\cdot \,m}^{\!\:x}
\!\sum_{i\!\:=\!\:1}^{2^n} \varphi_{i}(t\!-\!im)^n dt
=(n\!+\!1)\int_{x-2^n\,\cdot \,m}^{\!\:x}\!\!\!{\,2^{\frac{n\,(n\!\:-\!\:1)\,}{2}}}m^n n!\;dt\]を考える. 左辺は, \((6.3)\) より, \[\sum_{i\!\:=\!\:1}^{\,2^n} \varphi_{i}(x\!-\!im)^{n+1}-\sum_{i\!\:=\!\:1}^{2^n} \varphi_{i}\,\left(x-(\!\:2^n\!+\!i\!\:)\,m\right)^{n+1}
=\sum_{i\!\:=\!\:1}^{2^{n\!\:\!\:+\!\:1}} \varphi_{i}(x\!-\!im)^{n+1}\]であり, 右辺は, \[2^{\frac{n\,(\!\:n\,+\,1\!\:)}{2}}m^{n+1} (n\!+\!1)\!\:!\]であるから, \(n\!+\!1\) の場合も成り立つ.\(\blacksquare\)
 
 また, \((6.2)\) において \(r\) 階微分 \(\displaystyle{\frac{d^{\!\:r}}{dx^r}}\) を施せば, \(n\!>\!r\) をみたす任意の \(r\in \mathbb{N}\) について, \[\sum_{i\!\:=\!\:1}^{2^n} \varphi_{i}\;(x\!-\!im)^{n-r}=0\]が成り立つ.
 
 筆者が検索した限りでは,
\((6.2)\) と同値の恒等式に言及した文献を見出すことはできなかった. そこで, これを暫定的に「S.M.の恒等式」と名づけたい. 前節の仮称と似て非なるこの等式は 前節における S.M.Ruiz との直接的な関連はなく, 僭越ながら筆者のイニシャルである.
 
 ところで, \(T_{2}(k)\) や \(T_{3}(k)\) について, \((6.3)\) の \(\varphi_{i}\) を用いて \((6.2)\) と同様の等式を構成すれば,\[\begin{equation}\begin{split}&\sum_{i\!\:=\!\:1}^{4}\varphi_{5-i}\,T_{2}(k\!+\!i)=2\\
&\sum_{i\!\:=\!\:1}^{8}\varphi_{9-i}\,T_{3}(k\!+\!i)=24\\
&\sum_{i\!\:=\!\:1}^{16}\varphi_{17-i}\,T_{4}(k\!+\!i)=768\\
\end{split}\end{equation}\] などが得られる.
 ここで, \(k\in\mathbb{N}\) を \(x\in\mathbb{R}\) に置き換え, 公差を正数 \(m\in\mathbb{R}^+\!\) に置き換えれば, \(n\in \mathbb{N}\) を任意定数とする \(x\in \mathbb{R}\) についての恒等式
\[\textcolor{red}{\sum_{j\!\:=\!\:1}^{2^n}\left(\varphi_{2^n\,+1-j}
\left(\sum_{i\!\:=\!\:1}^{j}(-1)^{j-i}(x\!+\!im)^n\right)\right)
=2^{\frac{\,(\!\:n\!\:-\!\:1\!\:)\!\:(\!\:n\!\:+\!\:\!\:2\!\:)\,}{2^{ }\!\!}} m^n\, n!}\]
が得られ, \(n\!>\!r\) をみたす任意の \(r\in \mathbb{N}\) について, \[\textcolor{red}{\sum_{j\!\:=\!\:1}^{2^n}\left(\varphi_{2^n\,+1-j}
\left(\sum_{i\!\:=\!\:1}^{j}(-1)^{j-i}(x\!+\!im)^{n-r}\right)\right)=0}\]
が成り立つ.
 
 最後に, Ruiz の恒等式 \((5.5)\) と S.M.の恒等式 \((6.2)\) の関係について述べておこう.
 式を簡潔に表すために \((x\!-\!i)^n\) を \({x_{i}}^{\!n}\) と表すことにすると,\[\begin{equation}\begin{split}
\textcolor{blue}{1}\!\cdot\!
\left(\,{x_{1}}^{\!2}\!-\!{2x_{2}}^{\!2}\!+\!{x_{3}}^{\!2}\right)
+\textcolor{blue}{1}\!\cdot\!\left(\,{x_{2}}^{\!2}\!-\!{2x_{3}}^{\!2}\!+\!{x_{4}}^{\!2}\right)
={x_{1}}^{\!2}\!-\!{x_{2}}^{\!2}\!-\!{x_{3}}^{\!2}\!+\!{x_{4}}^{\!2}
\end{split}\end{equation}\]\[\begin{equation}\begin{split}
\textcolor{blue}{1}\!\cdot\!\left(\,{x_{1}}^{\!3}\!-\!{3x_{2}}^{\!3}
\!+\!{3x_{3}}^{\!3}\!-\!{x_{4}}^{\!3}\right)
+\textcolor{blue}{2}\!\cdot\!\left(\,{x_{2}}^{\!3}\!-\!{3x_{3}}^{\!3}
\!+\!{3x_{4}}^{\!3}\!-\!{x_{5}}^{\!3}\right)\\
+\,\textcolor{blue}{2}\!\cdot\!\left(\,{x_{3}}^{\!3}\!-\!{3x_{4}}^{\!3}
\!+\!{3x_{5}}^{\!3}\!-\!{x_{6}}^{\!3}\right)
+\textcolor{blue}{2}\!\cdot\!\left(\,{x_{4}}^{\!3}\!-\!{3x_{5}}^{\!3}
\!+\!{3x_{6}}^{\!3}\!-\!{x_{7}}^{\!3}\right)\\
+\,\textcolor{blue}{1}\!\cdot\!\left(\,{x_{5}}^{\!3}\!-\!{3x_{6}}^{\!3}
\!+\!{3x_{7}}^{\!3}\!-\!{x_{8}}^{\!3}\right)\\
={x_{1}}^{\!3}\!-\!{x_{2}}^{\!3}\!-\!{x_{3}}^{\!3}\!+\!{x_{4}}^{\!3}-{x_{5}}^{\!3}\!
+\!{x_{6}}^{\!3}\!+\!{x_{7}}^{\!3}\!-\!{x_{8}}^{\!3}
\end{split}\end{equation}\]\[\sum_{h\!\:=\!\:1}^{2^4-4}
\left(\textcolor{blue}{\lambda_{4,\,h}}
\left(\sum_{i\!\:=\!\:0}^{\,4}\,(-1)^i\binom{4}{\,i\,}\,{x_{i+h}}^{\!4}\right)\!\right)\,
=\sum_{i\!\:=\!\:1}^{2^4}
\varphi_{i}\,{x_{i}}^{\!4}\]\[\begin{equation}\begin{split}\lambda_{4,1}
=\lambda_{4,12}=\textcolor{blue}{1},\,\,\lambda_{4,2}=\lambda_{4,11}=\textcolor{blue}{3},
\,\,\lambda_{4,3}=\lambda_{4,10}=\textcolor{blue}{5},\\
\lambda_{4,4}=\lambda_{4,9}=\textcolor{blue}{7},\,\,\lambda_{4,5}=\lambda_{4,6}
=\lambda_{4,7}=\lambda_{4,8}=\textcolor{blue}{8}\end{split}\end{equation}\]などが得られるから,
\[\sum_{h\!\:=\!\:1}^{2^n-n}\left(\lambda_{n,\,h}
\left(\sum_{i\!\:=\!\:0}^{n}\,(-1)^i\,\binom{n}{\,i\,}\,{x_{i+h}}^{\!n}\right)\!\right)\,
=\sum_{i\!\:=\!\:1}^{2^n}\varphi_{i}\,{x_{i}}^{\!n}\]
(ただし, \(\lambda_{n,\,h}\) は \(\lambda_{n,\,h}=\lambda_{n,\,2^n-n-(h-1)}\) および \(\displaystyle{\sum_{h\!\:=\!\:1}^{2^n-n}\lambda_{n,\,h}=2^{\frac{\,n\,(\!\:n-1\!\:)\,}{2}}}\) をみたす)
が成り立つと予想される.
 残念ながら \(\lambda_{n, h}\) について定式化できていないため,
これについては筆者はまだ証明を得ていない.

 

 
§7.おわりに
 以上に述べた結果は, 冒頭に掲げた高校入試問題を発端として, ここ数か月間の断続的な数値実験によるものであり, 計画的な考察に基づくものではない. したがって, 本稿発表時までに成果が得られなかった未解決問題が (上記の他にも) いくつか存在し, ましてやその理論的背景までは考察の範囲がおよばなかった.
 
 博学多才なる
C.F.Gauss は理論を美しく体系化するまでは結果を公表しなかったと言われるが, 浅学菲才なる筆者の場合は, Gaussを気取っていると発表の機会は永久に得られない. 内容の洗練は他日を期すこととして, 未完成ながらも, 一旦ここで稿を終えることにしたい.
 
【文献】
[1] 荒川恒男, 金子昌信, 伊吹山知義『ベルヌーイ数とゼータ関数』牧野書店, 2001
[2] John H.Conway and Richard Guy, “The Book of Numbers”, Springer, 1996
[3] D.E.Knuth, “Johann Faulhaber and sums of powers”, Mathematics of Computation Vol.61, No.203, 1993
[4] A.F.Beardon, “Sums of powers of integers”, The American Mathematics Monthly 103, 1996
[5] F.T.Howard, “Sums of powers of integer via generating functions”, Fibonacci Quarterly, 34.3. 1996
[6] S.M.Ruiz, “ An Algebraic Identity Leading to Wilson’s Theorem”, The Mathematical Gazette Vol.80, No.489, 1996
[7] Thomas Koshy, “Elementary Number Theory With Applications”, Ed.2, Academic Press, 2007
 
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